火消し半纏と裏地

●火消し袢纏と法被の裏地

「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉が残っているほど、江戸時代には火事が頻発していました。大火が続いた後、幕府は町火消しの制度を定め、1番から10番で成なる大組と、いろは四八の小組が組織されました。よく「め組の~」と時代劇や小説などで登場するのはこの町火消し組織のひとつなのです。

当時の火消しは火事が起きるとすぐさま現場に駆け付け、命がけにも関わらず勇敢に消火活動を行い、庶民からは英雄視されていました。

この火消しがヒーローの証として着ていたのが、裏地付きのオーダー制作法被なのです。

火事現場へ向かう時は紺地に大紋がオリジナル作成されたシンプルなプリント面を上にして羽織り、消火が成功したあかつきには半纏を裏返し派手な印刷製作面を表にして凱旋したのだそうです。

はっぴの裏地に柄を入れたのは、火消しの親方クラスの人達でした。若い衆は刺青で人目を引き付けますが、親方は高価な特注袢纏を羽織り威勢で負けまいとしたのです。

その特注はんてんの柄は独自にデザインされたり、商家の主人から英雄の為に豪華な半被裏地が贈答されたりしたそうです。

激安法被の染色には筒描きの職人があたりましたが、下絵は刺青の彫師に描かせていました。そのため戦う火消し人の勇敢さは、格安半纏裏地からはみ出さんばかりの迫力で描かれ、まさに粋でいなせな江戸っ子文化が息づく装束であったのです。

●袢纏裏地に描かれる柄
【鳳凰】
鳳凰が飛べば雷も風雨もやみ、河川も溢れず鳥や虫も静まり、その羽ばたきの音は笙の音に例えられます。ひとたびその姿を見れば、徳が授けられるとして古来より神鳥として尊ばれているモチーフです。
【唐獅子牡丹】
唐獅子牡丹は「安住の地」を意味する柄です。百獣の王である獅子が唯一恐れるのは寄生虫、それを退治してくれるのが牡丹の花から落ちる一滴です。 牡丹の花の下は、獅子でも安心して身を寄せられる場所という意味で安住・安息の地という訳なのです。